養子縁組をすることで、相続税が節税になる…なんてことを聞いたことありませんか?
私がこのお話を聞いた時に、わざわざ養子をもらってまで税金対策をする人なんているのかな?そんな理由で養子にもらわれた人がかわいそう…みたいな感情が先立つ気持ちが湧いてきました。
とはいえ、実体を何も知らないままだとモヤモヤするので、実際に養子縁組をすることで税金対策になる仕組みや、具体的にどう利用されているのか?みたいなところを整理したいと思います。
・養子縁組が税金対策になる仕組み。
・実際に養子縁組による節税はどうやって利用されているのか。
◆養子縁組とは?里親制度との違いや仕組みについて
「誰かの養子に入る」「誰かを養子にもらう」小説やドラマの中だけの話かと思っていましたが、日本では産みの親のもとで育つことのできない子どもが、およそ4万6000人もいるらしいです。
養子縁組がどのようにして、税金対策に関係するのか紐解く前に、そもそも養子縁組とは何なのか?里親制度との違いは何か?という観点で整理します。
里親制度は、子どもと法律上の親子関係はありませんが、実際に育ての親として子どもを育てます。里親になると、国や自治体から養育費が支給されます。
養子縁組は、子どもと法律上で親子関係を結びます。養子縁組の中には、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の二種類があります。
(1)里親制度とは?
法律上の親子関係は結ばずに、様々な理由で産みの親から養育を受けれない子どもを「育ての親」として面倒をみてあげる制度です。
子どもが里親を必要とする理由によって、呼び方も様々なようです。たとえば虐待されていたり、障害を持っている子どもは専門的なケアを必要とするので、そうした子どもの里親は専門里親と言ったり、実の親と暮らせるまでの期間だけ育ての親として関わる養育里親などがあります。
より詳しい定義は公益財団法人全国里親会の「里親の種類と要件」をご覧ください。
(2)養子縁組とは?
次に法律で親子関係が成立する養子縁組について「普通養子縁組」と「特別養子縁組」に分けて確認していきましょう。
1、普通養子縁組について
普通養子縁組とは、子どもは新しい親と法律上の親子関係を持つことになりますが、産みの親との親子関係も継続します。つまり、両方の親と法律上の親子関係を持っているということですね。
養子となった子どもは、たとえば産みの親からも相続する権利を持つし、育ての親からも相続する権利を持ったりします。
もともとは「家」の後継を残すために出来た制度らしく、特別養子縁組と比べると条件がゆるいです。
2、特別養子縁組について
特別養子縁組は、産みの親との法律上の親子関係がなくなり、育ての親との法律上の親子関係に一本化するものです。
養子になる子どもは、産みの親との関係が全くなくなってしまいます。虐待を受けている子どもとか、貧困の子どもとか、健全に養育される環境にない子どもが特別養子縁組の対象になることが多いようです。
あくまで税金対策がどうこう、というよりも子どもにとって普通養子縁組が良いのか?特別養子縁組が良いのか?と検討することが健全なあり方だということがわかります。
◆税金対策の可能性がある相続税と養子縁組の仕組み
養子縁組が税金対策につながるとしたら、相続税に関わることだと思います。
そこで相続税について詳しく見ていくと同時に、養子縁組による節税の仕組みもあわせて整理しましょう。
(1)税金対策の可能性がある相続税とは?
相続税とは、財産を相続するときに発生する税金です。国はいろんな理由をつけて税金を取ろうとするなんてヒドい!と思うかもしれませんが、それなりに理由もあるようです。
1、相続税には富の再分配という機能
もし相続税が無ければ、極端な話ですがお金持ちの人はずっとお金持ちであり続け、貧乏の人はずっと貧乏であり続ける、そんな世の中になってしまう可能性が大きいのです。
そのため、子どもは何の努力もなしに親から財産を引き継ぐのであれば、その一部を税金として納めることで、その税金は世の中のために使いましょう!という類の税金です。
富や財産が一部の人に集中することを防いで、社会が機能するようにするわけです。富の再分配なんて言われ方もします。
2、所得税のカバー仕切れない部分を補う役割
私たちの個人的な収入には所得税という税金が発生します。この所得税というかたちで平等に税金を集めきれない状況を補うために相続税があるなんて考え方もあるみたいですね。
たとえば不動産なんかは持っているだけで資産の価値はあがったりします。不動産として資産が増えた分は、相続する立場の人は収入として所得税を納めているわけではありません。
相続する時に、相続される側がこのタイミングで相続税を払うことで財産にかかる税金を平等に集めようという意図があるみたいです。。
(2)養子縁組を利用した相続税の税金対策を理解する
養子縁組をした時に、相続税の税金対策になり得るポイントは「相続税の基礎控除」に関する項目です。
1、相続税の基礎控除について
相続税の特徴は、受け取る財産すべてに税金がかかるわけではなくて、税金が発生する範囲の線引きがあります。
それが基礎控除と言われるもので、相続する人数によって税金のかからない範囲が決まります。相続人の人数が多くなれば、その分基礎控除の範囲も大きくなるわけです。
なるほど。もし養子縁組で相続人が増えたら、その分基礎控除の金額も増えて、結果的に税金対策になっているってことだね!
基礎控除の計算は3,000万円+(600万円×法定相続人の数)で導き出されます。
法定相続人が1人の場合は基礎控除額は3,600万円で、法廷相続人が2人の場合には4,200万円が基礎控除額になります。
法定相続人が増えれば増えるほど、基礎控除額が高くなりその分、税金対策につながりますよね、という話の流れなわけです。
2、生命保険も相続税の対象になるけど、独自の非課税枠がある
生命保険も相続税の対象になることがあります。たとえば私が死亡したら受け取れる死亡保険金があります。毎月の保険料は私が払っていて、私が死亡したら妻が2000万円の保険金を受け取るとしたら、その保険金も相続税の対象になるってことなんです。
でも、死亡保険金を相続する場合は、生命保険としての非課税枠が設定されています。非課税枠ってのは、税金がかからない範囲ですね。
生命保険の非課税枠の基本的な計算式は、「500万円×相続人の数」となります。
上の例でいけば生命保険の金額が1,500万円入ってくると仮定して、子どもが二人だけであれば非課税なのは1,000万円だけなので残りの500万円に相続税がかかってきます。これが、子ども三人であれば相続する保険金1,500万円分をすべて相殺できてしまうわけですね。
生命保険の非課税枠を有効活用するのであれば、相続財産の一部は生命保険金として残しておいた方が税金対策となる可能性が高いですよね。相続税の基礎控除+生命保険の非課税枠の合わせ技です。
一人一人の状況や環境は違うと思いますし、生命保険の商品も数多く存在しますので、生命保険を払い続けてでも生命保険の非課税枠のおかげで相続税が安くなるのかどうかは、専門家にご相談いただくのもありだと思います。
(3)死亡退職金の非課税枠
今はもう少ないかもしれませんが、退職金制度のある会社では本人が亡くなってしまった場合に残された遺族が退職金をもらう場合があります。実はこの退職金にも相続税がかかることになりまして、それを死亡退職金と呼びます。
もちろん死亡退職金にも非課税枠は設けられていて、それは「500万円×法廷相続人の数」ということになります。つまり、法廷相続人が多くなればその分、死亡退職金にかかる相続税を減らすことにつながるわけですね。
[ad#co-3]◆税金対策として養子縁組を使う時の注意点
これまで見てきたように養子縁組を利用して、法定相続人の数を増やすことが出来れば、基礎控除やその他の非課税枠を増やせて相続税の税金対策になりそうです。
とはいえ、通常の養子縁組の考え方と、相続税の税金対策としての養子縁組の考え方には少し注意しなければいけないポイントがあるので、そちらを整理しておきましょう。
(1)税金対策のための養子縁組には人数制限がある
養子縁組で税金対策をする時には、人数に制限があるので要注意です。子どものいない家庭に養子で入るなら2名までは基礎控除の対象。すでに子どもがいる家庭に養子が入る時は1名までが基礎控除の対象です。
a実子がいない場合の養子は2名まで
b実子がいる場合の養子は1名まで
(2)あからさまな税金対策のための養子縁組は認められないこともある
何が認められないかといえば、養子縁組の基礎控除や非課税枠の相続人の人数に認められないことがあるということで、養子縁組としての関係がなくなるという意味ではありません。
国税庁のホームページには以下のような注意書きがあります。
養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、原因となる養子の数はa又はbの数に含めることは出来ません。
どのような場合が「不当に」にあたるのかは意見が分かれるところですが、基本的には税金対策のためだけに養子縁組をしました!なんてことが証明されてしまえば危険ということですね。とはいえ、養子縁組は税金対策のためだけにやることではないので、その点だけ注意しておけば大丈夫でしょう。
(3)養子縁組をすることで税金対策とならないケースにご注意!
ここへ来て、養子縁組をすることで逆に相続税が増えてしまうケースがあることに注意が必要です。
1、養子縁組が上手く機能しない時
財産を相続する立場の人に、両親や子どもがいない場合、相続される立場の人たちの範囲が少し複雑になります。相続をされる立場の人たちを相続人と言いますが、状況に合わせて相続を受けれる順番が法律で決まっています。
<相続税の優先順位>
第一順位:配偶者と子ども
第二順位:配偶者と父母や祖父母
第三順位:配偶者と兄弟姉妹
子どもがいれば、真っ先に相続される立場になるのは子どもですね。これが子どもや両親がいないとなると、順番が下の相続人たちに出番が回ってきます。
子どももいなく、両親もいないと、配偶者と兄弟姉妹が相続人になります。仮に兄弟姉妹が3人いる場合は配偶者と合わせて相続人は4名です。
これが養子縁組で子どもを迎い入れたとすると、第三順位だった相続人の対象が第一順位に戻ります。そうすると配偶者と子どもが相続人となり、合わせると2名となるのです。
このように状況によっては、養子縁組をすることによって逆に相続税を多く支払う可能性を残してしまうことに注意が必要です。
実際に相続税対策の準備は長い時間をかけて、信頼できる税理士と一緒に行うべきです。安心できる人か?知識と経験は申し分ないか?なるべく多くの専門家と合ってその目で見極めてください。税理士ドットコムなら納得できるまで税理士を探すことができます。
◆「養子縁組による税金対策」まとめ
養子縁組を利用して税金対策をすることを考えた時、ただ単純に養子縁組の人数を増やせば良いというわけではないのですね。
もちろん養子縁組の制度の背景を考えれば、税金対策のために養子縁組の制度があるわけでないのは一目瞭然ですし、自分たちの後継のためとか、子どもたちの生活のためなど本来の動機から養子縁組をし、結果的に相続の際に税金対策となったというのが理想的だと思います。
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